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 天平堂

伊藤明美

Akemi Ito

忠義に厚く、数々の武功で名を馳せ、肥後細川家の基礎を築いた細川忠興公。当代きっての文化人でもあり、茶の湯の世界では「三斎」の号で知られ、利休七哲に数えられます。文禄・慶長の役(1592~98)で招致されてきた尊楷(和名:上野喜蔵)を召し抱え、福岡県田川郡福智町の上野郷に「釜ノ口窯」を開窯したのが上野焼の起源です。

豊前国(小倉藩細川家)と筑前国(福岡藩黒田家)を跨ぐ福智山では、ほぼ同時期に高取焼の「永満寺宅間窯」に続いて「内ヶ磯窯」が稼働しました。この地がまとう静謐な空気感は神聖で、400年前からさほど変わっていないと思われる風景が一面に広がっています。この歴史ある里からほど近い、福岡県田川市で作陶に臨むのが伊藤明美さんです。

有光武元氏に師事した後、独自で研鑽を重ねながら、多くの茶人や数寄者の知遇を得て、美術館からの用命も受けます。これもひとえに「伊藤明美」という人間性の賜物です。肥前古陶磁に精通した蒐集家としての一面もあり、伊藤さんの高い技術力は古陶磁への強い探求心や、古来より受け継がれてきた本質の作品に身を投じる事で培われてきました。

原料は地元産にこだわり、陶土の採取作業から始まります。土が異なれば当然のように求めている趣や風合いも異なります。上野焼や高取焼に対する畏敬の念、揺らぐ事のない思いが垣間見え、手間暇を惜しまない謹厳実直な作業工程を経て、納得のいく材料を生み出していきます。

焼けすぎず、甘すぎずの凌ぎ合いの中に生まれた器は、使い込んでいく程にその表情を変え、育っていきます。私の家庭でも伊藤さんの器を食卓で並べていますが、用の美ともいえる素朴な優しさを感じ取る事ができます。それは伊藤さんが持つ内面の温かさや気心が醸し出ているものでしょう。韓国古窯跡をくまなく巡って研究に邁進し、自身が求める憧れの古陶磁に近付くべく、粉青沙器、唐津焼、磁器と幅広い作風を展開していますが、ここ数年で最も注力されている分野の一つが上野焼と高取焼です。

人と人とのご縁の繋がりを大切にしながら、人生を豊かに楽しむ伊藤明美さん。「うつわや」と冠する名の通り、長く使って頂けるよう使い手の気持ちを真摯に受け止めた伊藤さんの「うつわ」には真心が宿っています。

伊藤明美

Akemi Ito

1964(昭和39)年生

福岡県田川市に生まれる。

1992(平成 4)年
福岡県立田川高等技術訓練校にて陶芸の基礎を学ぶ。

1993(平成 5)年
有光武元氏に師事。

1997(平成 9)年
福岡県田川市にて作陶を始める。
NHK文化センター(北九州)陶芸講師となる。

2005(平成17)年
鞍手竜徳高校にて陶芸講師となる。

京都や東京でも個展を開催し、全国に根強いファンを有する。

Photography, Text:今林崇