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5月27日(土)、太宰府天満宮にて「初夏の会」という大寄せ形式の茶会を開催しました。発端は同業の友人である芳香園・井上正治さんに何気なく相談した事に始まります。頭の中に思い描く事はできても、一人でできる事には限りがあり、二人になる事で加速的に物事が進み出しました。話し合いを重ねる中、会場として一番に思い浮かんだのが、西都の歴史が今も引き継がれる太宰府天満宮でした。境内には1901(明治34)年、天皇の行在所(休憩所)として建てられた「文書館」という歴史的建造物があります。太宰府天満宮様のご厚意により、この文書館で開催する事が叶いました。通常は一般公開されていません。
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立ち上げから全面的にご協力下さったのが、徳淵卓さんでした。徳淵さんは福岡市中央区赤坂で「万 yorozu」というお洒落で居心地の良い茶酒房を営まれています。婦人画報にも特集される等、知る人ぞ知る有名店です。非日常の癒しを求め、連日、多くの方々が訪ねられています。今回は万さんの世界観をそのまま大広間に表現し、「初夏」にちなんだ、涼感ある古染付とオールドバカラで渾身の玉露一煎を振る舞って下さいました。重要文化財の志賀社保存修理で出た檜皮葺を茶托に加工し、2027年の式年大祭を踏まえた御本殿大改修と重ねた趣向。キレのある香煎席が濃茶席へ文化のバトンを繋いでくれます。
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濃茶席は光明寺住職の山西昭義さん。山西さんは私の父から続く、約20年のお付き合いとなります。時に父のような兄のような存在で、公私共にいつも気にかけて下さいます。この濃茶席は山西さん以外には考えられず、無理なオファーであるにも関わらず、快く引き受けて下さいました。何度も神戸から太宰府まで足をお運び頂き、待合や本席の室礼を最後の最後まで突き詰めて下さいました。貴重なお時間を作ってお越し下さいますお客様との一期一会を大切にしたいという山西さんの性格です。心置けないお茶仲間やお道具仲間に囲まれて。
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ご挨拶から始まり、松尽くしの菓子器、藤丸さんの青梅(主菓子)、添えられた竹から成る贅沢な松竹梅。限られた時間の中、神戸に伝わる菅原道真公のお話をゆっくりと紐解いて下さいました。初めは緊張なされておりましたお客様も山西さん特有のユーモアセンスでリラックスし、席中はいつも笑顔で包まれます。山西さんのお席は本当に面白く、各地で引っ張りだこの理由もお席に入れば納得です。お点前はご長男の優さん。準備からの長丁場、本当にお疲れ様でした。
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観梅室(濃茶席)からは「曲水の庭」が覗けます。3月には平安時代の雅やかな宮中行事を再現した「曲水の宴」が催されます。梅花が咲き誇る中、十二単や衣冠束帯の平安装束に身を包んだ参宴者達は上流から流れてくる盃が自分の前を通り過ぎるまでの間に歌を短冊にしたため、盃のお酒を飲み干します。958(天徳2)年に大宰大弐・小野好古により始められた神事で、詩歌の名手であった菅公の在りし日の御姿、当時の華やかな宴の様子が思い起こされます。
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トリを飾るのは博多の老舗料亭である満佐の女将・白藤国恵さん。白藤さんとは芳香園さんから頂きましたご縁です。今年の初めに白藤さんが主催した茶事で雛道具の世界観に魅了され、衝撃を受けました。今回は置水屋に茶箱の趣向。香煎席、濃茶席、薄茶席と独自の個性があり、西都の趣向で点と点が線になる御三方の豪華共演となりました。
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この日の為にお時間を作って下さいましたお客様、事前準備から撤収まで汗だくでくたくたになるまで有志で動いて下さった裏方様、これ以上ない場を与えて下さいました太宰府天満宮様に支えられ、芳香園さんと一年間温めてきた初夏の会を無事に終える事ができました。美術や茶の湯に興味を示して下さる方の輪が少しでも広がり、お越し下さいましたお客様に温かい気持ちが残る会に育てて行きたいです。来年も別の趣向で開催できればなと夢見ております。皆様、本当にありがとうございました。
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