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 天平堂

傷 / 美術修復

Damage / Restoration

美術品における傷や修復の捉え方

「美術品」と一口に言っても、数百年を経た古美術から、現存作家を含む近現代工芸まで、その領域はきわめて広範です。資産価値という観点から見ると、近現代工芸において傷や修復は好ましくありません。古美術の世界では、陶器は比較的寛容に受け止められるのに対し、磁器は厳しく減価の対象とされる傾向があります。ただし、磁器であっても希少性の高い美術品であれば、多少の欠点は避けがたいものといえるでしょう。もちろん、一級品の完品(無傷)に越したことはありません。しかし、「あばたもえくぼ」という言葉が示すように、あまりに神経質になりすぎて蒐集の幅を狭めてしまうよりも、広い視野を持ち、ご自身の心に響く作品を素直に選ぶことこそ、豊かな蒐集の基本であると考えています。


美術修復について

かたちあるものには、常に破損のリスクが伴います。希少性の高い美術品をはじめ、ご家族の思い出が宿る品や、二つとない一点物など、その背景はさまざまです。近年の共直しは、肉眼では判別がつかないほど精巧で、他にも金、銀、蒔絵、漆など、多様な技法による美術修復があります。これらの修復は、かたちを整えるだけでなく、そこに込められた思いを未来へとつないでいく大切な営みでもあります。


美術品の状態を表す基本用語

貫入

貫入(かんにゅう)

釉面に生じた細かな罅(ひび)割れのことを指します。素地よりも釉薬の熱膨張率が大きい場合、焼成後の冷却過程で釉面に引っ張り応力がかかり、その力が弾性限界を超えたときに構造的なひびである貫入が生じます。外部からの衝撃によって生じる後天的な欠点としての「入(にゅう)」とは区別される点が特徴です。作品の表情、時代の趣として評価される事もあります。焼成温度が低く、焼きが甘い作品では全面に貫入が入ることがあり、「甘手(あまて)」と呼ばれます。このような作品は、軽く叩くと澄んだ音ではなく、やや鈍い音を発します。


入

入(にゅう)

完璧を求める磁器においては欠点対象となりますが、古陶器においては磁器程の欠点とはならず、景色の一環として寛容に捉えられる事さえあります。皿、茶碗、壺などの口縁から見込みへ向かって走る罅で、外力による衝撃によって生じるため、素地を含む表裏を貫通するのが特徴です。磁器においては欠点と見なされますが、古陶器では景色の一端として許容されることさえあり、一概に否定されるものではありません。


鳥足

鳥足(とりあし)

皿や壺の見込みや底裏に放射状に走る罅を指し、多くは外力の衝撃によって生じます。鳥の足跡を思わせる形状から、この呼称が用いられています。


窯疵(かまきず)

制作の過程で生じた疵を指し、欠けや罅を呈していても釉薬の下に収まるのが特徴です。この種の疵は「山疵」、または簡略に「山」と称されます。外部からの衝撃によって生じる後天的な損傷とは一線を画し、作品固有の表情として捉えられることもあります。


ホツ / 削げ / 欠け

ホツ / 削げ / 欠け

縁や高台などの一部が欠けてできた傷です。範囲が小さなものは「ノミホツ」や「小ホツ」と呼ばれ、広くなると「削げ」や「欠け」と区別されます。


ひっつき

ひっつき

焼成中、窯内で陶磁器の器面に異物が付着して生じた窯疵を指します。


釉切れ

釉切れ

釉薬が掛かり切らず、一部の素地が露出した状態を指します。「釉抜け」とも呼ばれます。


釉剥げ

釉剥げ

素地はそのままに、釉薬部分のみが剥離した状態を指します。


虫喰

虫喰(むしくい)

素地と釉薬の収縮率の相違から釉薬が剥落し、胎土が露出した状態です。虫が喰ったように見えることから「虫喰」と呼ばれます。口縁や角部など、釉薬が薄く掛かった部分に生じやすいのが特徴です。本来は欠点とされる現象ながら、茶人はその自然な表情に雅味を見出し、粗笨な趣として美的に評価しました。


金直し / 銀直し

金直し / 銀直し / 蒔絵直し

傷を補強しつつ、外観を美しく整える技法を「直し(修復)」と称します。金や銀を用いた直しが一般的で、その仕上がりは一種の鑑賞性を帯びます。蒔絵によって文様が施された直しの中には、修復の域を超え、芸術的表現へと昇華したものもあります。


共直し

共直し

傷の痕跡を覆い隠すべく、周囲の色調、文様、質感に合わせて丁寧に仕上げる修復を「共直し」といいます。多くはブラックライトにより修復部が判別できますが、近年は反応を示さない高度な共直しも散見されます。


呼継ぎ

呼継ぎ(よびつぎ)

欠損した箇所に同手、あるいは調和の取れた陶片を呼び寄せて補う修復です。陶器ならではの趣味性を帯び、補修部がひとつの景色として鑑賞される場合もあります。