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 天平堂
秋月茶会(秋月美術館)

秋月茶会(秋月美術館)

2025年10月25日New

福岡県朝倉市秋月は「筑前の小京都」と称される風雅な城下町です。春は桜、秋には紅葉が彩を添え、訪れる人々の心を静かに潤します。野鳥川のせせらぎと古処山の稜線が織りなす景観は、自然の懐に抱かれるような安らぎをもたらします。秋月城跡へと続く「杉の馬場」は、嘗て武士達が馬術の稽古に励んだ由緒ある道。現在では約500メートルに亘る桜並木が続き、春には「桜のトンネル」として、多くの人々を魅了する名所となっています。この文化の軸を担う施設の一つが秋月美術館です。館内では茶陶として名高い高取焼の伝世品を中心に、秋月の美意識と歴史を静かに語り継いでいます。

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草創期の永満寺宅間窯に始まり、幾度もの移窯を経て展開された高取焼の歩みを把握できる展示構成。窯の変遷と時代ごとの様式を的確に捉え、選び抜かれた作品群が整然と、そして美しく配され、空間に静謐な気配を漂わせています。

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二階には古窯跡から出土した作品、福岡藩の磁器窯である須恵焼も展示され、時を超えて来館者を迎えます。

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2023年における太宰府天満宮様の文書館での茶会「初夏の会」に続き、今回は秋月美術館様のご協力の下、「秋月茶会」を開催させて頂きました。美術館が誇る高取焼コレクションを舞台に、五感で味わう文化体験をお届けする趣向です。庭園を床の間に見立て、待合にするという席主の粋な設え。卓には韋駄天尊像を安置し、お軸は仙厓和尚の指月布袋。呈茶席へと物語が紡がれます。

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今回の点心席は「節魚 すし宗」さん。すし宗さんとのご縁は、兄のように親しくさせて頂いておりますお客様からのご紹介によるもので、快くこのお席をお引き受け下さいました。高取焼は小堀遠州の指導による遠州七窯の一つとして知られ、茶の湯文化と深く結び付いています。日中は残暑とは名ばかりの厳しい暑さもあり、遠州好みの「綺麗寂び」に、涼やかな気配を添える義山を取り合わせました。

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一面に広がる緑を前に、時は緩やかに流れ、心が静かにほどけてゆきます。
ひと時の凛とした特別な空間。

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宗秀和さんの手による一貫一貫には、 季節の魚を慈しむ眼差しと、節句の喜びを寿ぐ心が映し出されています。
熟成を重ねて旨みを開く白身、柔らかな雲丹は潮の記憶を優しく呼び覚まします。

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華美を避け、素材に寄り添う所作には、季節の移ろいを語りかける茶の湯にも通じています。

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呈茶席は美術館の離れに佇む四畳半の小間にて。席主をお務め下さったのは神戸市兵庫区・光明寺のご住職、山西昭義さんと優さん。親鸞聖人の教えを礎に、藪内流の茶の湯を通じて、人と人のご縁を結び、文化と祈りを届けるその活動は、地域を越えて多くの人々の共感を集めています。山西さんの温かなお人柄と絶大な人気も相まって、今回も募集開始と共に、九州はもとより関西方面からも多数のお申し込みを頂き、すぐに満席となりました。

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床には黒田長政が家臣に築城の石組みを指示した書状が据えられ、花入には永満寺宅間窯の瓢形、水指には秋月美術館所蔵の内ヶ磯窯の釜形水指を取り合わせるという、席主と美術館の共演も成されました。この水指の旧蔵者が山西さんであったという事もあり、高取焼への敬意が通い合う同志としての共鳴を生み、点と点が導かれるように、一筋の線が描かれました。

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茶室に差し込む光、亭主の一挙手一投足。参加者は茶碗の手触り、香の余韻、風の音に耳を澄ませながら、一碗に込められた世界と向き合います。そこには言葉を超えた交流があり、茶の湯を介して、空間と人と季節を結ぶ、「間」の芸術が静かに息づいています。

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山西さんのお席を後にすると、自然と笑みがこぼれます。「作法が分からないから」とお茶会をためらう声も少なくありませんが、山西さんは形にとらわれる事なく、人との出会い、一期一会の尊さを何よりも大切にされています。「お茶の作法を知らなくても構いません。まずは、お茶の世界に触れてみて下さい。」そう語る、しなやかで開かれた姿勢こそが、山西さんのお席の魅力です。禅の心が織り込まれ、趣向を凝らしたお道具の取り合わせ、そして、唯一無二の格式と美意識。その場には深い精神性と洗練が漂いながらも、現代の感覚に即した演出や、ふとこぼれる談笑が穏やかな温もりと親しみを加えます。伝統に真摯に向き合う方にも、気軽に茶の湯を体験したい方にも、そっと寄り添い、迎え入れてくれる懐の深さがあります。

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知と美が交差するひと時を通じて、皆様とのご縁が結ばれ、日々の暮らしに彩を添えるものでありますように。
ご来会賜りました皆様、並びに由緒ある場をご提供下さいました秋月美術館様に心より感謝申し上げます。

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福岡県朝倉市秋月野鳥695-1
秋月美術館