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 天平堂

キャリアのスタート

Q古美術の仕事を始められたきっかけをお聞かせください。
A生家が古美術商を営んでおりました。父の晩年に生まれたこともあり、高齢の父を支えたいという思いが芽生え、それが古美術の道へ進む大きな契機となりました。
Qお父様の仕事に携わり始められたのは何歳頃でしょうか。 当時抱かれていたお考えや心境についてもお聞かせいただけますと幸いです。
A父の仕事を手伝い始めたのは19歳のときでした。経験も知識もないところからの船出でしたが、日々目の前のことに向き合い、ただ真摯に取り組むことだけを心に刻んでおりました。その積み重ねこそが何より大切だということを、身をもって学んだ時期でもあります。
Qお父様から受けられたご指導の中で、特に印象深く、現在の礎となっている教えについてお聞かせください。
A父から最初に学んだのは、業界のルールと作品の扱い方でした。接客の所作も含め、現場で父の背中を見ながら身につけたことが多かったように思います。なかでも強く心に残っているのは、父の揺るがぬ精神力です。どのような局面でも浮き沈みなく、常に冷静にどっしりと構えており、その姿には言葉にできない安心感がありました。
Q審美眼を磨き続けるために、日々どのような姿勢や取り組みを大切にしておられるのでしょうか。
A審美眼を磨くうえで欠かせないのは、できる限り多くの作品を手に取り、自分の目で確かめることです。実際に買ってみなければ分からないことも多く、入手した作品は身近に飾り、使いながら、その佇まいをじっくりと体感します。名品には言葉にしがたい独特の気韻が宿っており、確かな来歴をもつ作品を扱う経験を重ねることで、真贋を見抜く力は自然と深まっていくものだと実感しています。
Qオークションでの仕入れにあたり、どのような視点や判断基準を大切にしておられるのでしょうか。
A違和感なく直感的に心を打つ作品を選び抜くことを大切にしています。 国内の大規模なオークションは数日にわたり、数千点もの作品が出品されますが、その中から選び取るわずかな数点には、特別な思いを込めて向き合います。たとえご縁がなく入手できなかったとしても、挑戦した経験そのものが、美術商としての長い人生において確かな糧になっていくと感じています。
Q古美術商として歩まれる中で、最もこの仕事ならではと感じておられる醍醐味についてお聞かせください。
A思い焦がれていた作品を手にできたときの喜びは、何ものにも代えがたいものがあります。そして、その作品にお客様が心から共感してくださる瞬間は、美術商としてこれ以上ない幸せです。世の中が便利で合理的になる一方で、どこか無機質さを覚えることも増えました。だからこそ、心から美しいと思える“人間的な豊かさ”を、丁寧に次の世代へとつないでいきたいと強く感じています。

天平堂について

Q創業の年代と、店名の由来についてお教えいただければ幸いです。
A1976(昭和51)年の創業で、「天平堂」という屋号は父が名付けたものですが、美術が円熟を迎えた奈良・天平の世への憧れが込められていたのかもしれません。また、父の兄は、天平文化に先立つ飛鳥時代に花開いた白鳳文化に因み「白鳳堂」を掲げておりましたので、兄弟の仲の良さと、互いの美意識の響き合いを感じます。
Q古美術の中でも、特にどの分野を専門としておられるのでしょうか。
A専門分野は、中国古美術、朝鮮古美術、九州古陶磁(日本)を柱とする東洋古美術です。陶磁器の起源は中国に遡り、その技術と美意識は朝鮮半島を経て、九州へと伝播していきました。こうした歴史的な流れを踏まえ、桃山時代を中心とした茶道具をはじめ、飲食店様向けの懐石道具まで、幅広く取り扱っております。
Q出店の地として博多を選ばれたのは、どのような思いによるものでしょうか。
A博多は九州随一の都市として、私にとって長く憧れの場所でした。 父が北九州市で営んでいた店舗を移すにあたり、東京という選択肢も視野にありましたが、出生の地である博多への思いが自然と背中を押してくれました。九州古陶磁を専門とする弊店においても、この地は文化の源流に寄り添う場所です。地元への誇りを大切にしながら、これからも歩みを重ねていきたいと願っています。
Q海外のお客様も多く訪れられるとうかがいました。文化や価値観の異なる方々と向き合う際、特に大切にしておられる点はございますか。
A海外のお客様との応対には、言語や文化の違いが避けられません。しかし、どの国の方であっても、日本ならではの思いやりの心で向き合うことを大切にしています。相手を敬う姿勢こそが、言葉を超えて確かな理解へと導いてくれると感じています。
Q美術品の蒐集にあたり、どのような点を意識すると良いか、アドバイスをいただけますと幸いです。
A美術品を蒐集するうえでは、ご自身が心から愉しめるもの、純粋に美しいと感じられるものを選ぶことが大切です。そうした選択が豊かな心を育み、人生に良い流れをもたらしてくれるはずです。好きな作品は日々の暮らしに彩りを添えてくれますし、良いお道具には確かな品格が宿っています。そして、感性の合う美術商との出会いもまた重要で、“店主を買う”という言葉の通り、信頼できる相手にアートライフを委ねられることは、蒐集の大きな支えとなります。
Q最後に、天平堂はお客様にとって、どのような存在でありたいとお考えでしょうか。
A美術商はその道の専門家として確かな鑑識眼を備えていることは当然の務めです。天平堂は、お客様が真に価値ある美術品と出会えるよう、誠意をもってお手伝いしたいと考えています。そのうえで、美術を愛するあらゆる方々と自然体でつながり、心豊かに過ごしていただけるような、温かく愉しい場でありたいと願っています。