末広がりの優雅な扇面形の器内に、山水図と詩文を簡潔な筆致で描いた厚手の古染付です。「春水満四澤 夏雲多奇峰」の賛は、東晋の詩人・陶淵明の詩に由来し、「春には豊かな水が四方の沢を満たし、夏には雲が湧き立って奇峰をなす」という情景を読んだものです。静かな水景と躍動感あふれる雲峰の対比には、自然の移ろいと生命の息吹が託されており、文人たちに愛された詩情豊かな世界が広がります。料理を盛ることで見え隠れする山水の景色は、あたかも一幅の詩画を鑑賞するかのような趣を生み、茶事や懐石の席に格調高い風雅を添えてくれます。
- 時代
- 明時代
17世紀前半
- 重量
- 約 259g(1客あたり)
- 横幅×奥行
- 約 18.2×8.8cm
- 高さ
- 約 3.1cm
- 付属品
- 桐箱(段箱)
- 状態
- ・完品
・縁に虫喰があります

古染付
古染付とは明時代末期の天啓年間(1621-27)を中心に景徳鎮民窯で焼成された染付磁器です。
「新渡り」と呼ばれる清時代の染付に対し、古式に属する「古渡り」の染付との意味合いで、
独特の様式を持つ一群が「古染付」と独立した呼称で親しまれており、
遺例も日本に多く伝来しています。
この時代は万暦帝の崩御により景徳鎮官窯が閉鎖され、
民窯が生産と流通の主導権を握っていました。
官窯に従事していた陶工たちも生計を立てるために民窯へ移り、
官窯の品格を感じさせる優品も残しました。
その多くは茶陶の古染付と祥瑞に属しています。
日本の茶人による注文品の茶陶と、日常使いの器物とに大別されており、
茶陶としての古染付は日本人に親しまれた厚手の陶胎に倣い、
全体に肉取りが厚く、力強い造形が特徴です。
明時代末期は日本の茶人が新奇な茶道具を求めて注文焼成を盛んに行った時期でもあり、
それぞれの美意識に応じた茶道具が発注されました。
古染付の多くには素地と釉薬の収縮率の相違から釉薬が剥落し、胎土が露出する現象が見られます。
虫が喰ったように見えることから、これを「虫喰(むしくい)」と呼びます。
特に口縁や角部など、釉薬が薄く掛かった部分に見られるのが特徴です。
通常の焼物においては欠点とされるこの現象も、
茶人はそこに自然の雅味を見出し、粗笨な趣を美的効果として評価しました。

















