Special Preview先行紹介
元禄年間(1688-1704)の傑作に数えられる最上手の古伊万里です。型物の中でも荒磯は不動の評価を示す重要品目であり、染付(荒磯)と金襴の色調対比が秀抜です。重量感あるしっかりとした手取りで、明時代の嘉靖年間(1522-66)に景徳鎮民窯で制作された金襴手を脱し、古伊万里の到達点を示す独自の意匠を生み出しました。国内の大名や豪商の需要を担った富裕層向けの作品として、茶の湯の菓子鉢、慶事の贈答品、宴席における饗応の器として最高位の評価を博しました。
⇒ 田中丸コレクション(外部リンク)
- 時代
- 江戸時代
17世紀末期-18世紀初期
- 重量
- 915g
- 口径
- 25.1cm
- 高さ
- 7.5cm
- 底径
- 12.5cm
- 次第
- 時代箱(杉箱)
- 状態
- 完品
洗練された造形、美しい色彩、秀抜な焼き上がりと一級品の条件を満たしています。
型物の中でも琴高仙人、荒磯、赤玉雲龍は三絶と云えます。
元禄年間(1688-1704)は空前の経済的繁栄を見せ、
裕福な商人達が文化を牽引する豪奢な時代を迎えました。
この時期における型物は古伊万里の最高峰です。
荒々しく磯に打ち寄せる波濤に鯉が跳ね、
ゆくゆくは天に昇ろうとする様子を表しています。
黄河の急流(竜門)を登る事ができた鯉は竜になるという伝説があり、
立身出世の象徴的な文様です。
鯉の尾の近くの制作過程で生じた窯疵に上絵具(緑釉)による傷隠しが施されています。
濃艶な赤地を基礎とし、
一般的な唐草文の代わりに雲文が配されています。
同様の染付素地の伝世品に別の文様構成も確認されています。
染付の縁枠内には萌黄地金襴手(荒磯)と同様に黄釉が配されており、
唐花文に施された金はとても上質です。
江戸時代の杉箱に「南京錦焼 ドンブリ一」と墨書きされ、
大切に伝世されてきた様子が窺えます。
古伊万里
古伊万里とは江戸中期に肥前有田で焼成された磁器です。
型物に代表される国内向けの作品も知られていますが、
異国趣味を掻き立てる様々な品種の輸出作品を主体としていました。
景徳鎮磁器に代わる最良の品として有田磁器が世界市場を確保すると、
品質の高い作品を量産できるよう、熟練した職人による分業体制が確立されました。
染付に色絵と金彩を多用して絢爛の限りを尽くした「金襴手」は古伊万里の主体を成し、
元禄年間(1688-1704)の繁栄を示すが如く、優麗華美な世界を展開しました。
元来は明時代の嘉靖年間(1522-66)に景徳鎮民窯で完成された装飾技法であり、
金箔を焼き付けた富貴な趣味に満ちています。
王侯貴族間では宮殿室内を磁器で装飾する「磁器の間:The Porcelain Room」が、
富や権力の象徴として流行しました。
欧州に齎された磁器は棚や壁に飾る美術品であると共に接客用の室内調度品でもある為、
経年劣化によって色絵や金彩が擦れた作品も多く見られます。
「オールド・イマリ」、「オールド・ジャパン」、「イマリヤキ」という呼称は、
現在も国内外の愛陶家や蒐集家に交わされる肥前磁器の愛称です。
https://tenpyodo.com/dictionaries/old-imari/
型物
型物とは濃艶な配色に金襴手を主とした国内向けの古伊万里です。
「名品の型に嵌まった(高い基準を満たした)名物」という意味合いがあり、
それに準ずる作品は「準型」とも称されています。
欧州に向けて大量生産された輸出古伊万里とは異なり、古伊万里の色絵における最高峰として、
国内の大名や豪商の需要を担った富裕層向けの洗練された作品です。
実際に将軍家や諸藩への献上を意図した訳ではありませんが、
献上品に相当する高品質の作品から「献上手」という美称が奉られています。
多くが細密入念な文様的意匠によって構成されており、
赤玉雲龍、荒磯、琴高仙人、五艘船、寿字、宝尽くし、姫皿、弓破魔等を始めとし、
鉢の器形には丸鉢、兜鉢、独楽形鉢、平鉢等があります。
茶の湯の菓子鉢、慶事の贈答品、宴席における饗応の器として珍重されました。
最盛期の元禄年間(1688-1704)を過ぎても、
型物の様式は伊万里焼の主要な生産品目として連綿と紡がれていきますが、
時代が下ると共に品質は低下します。