贅の極みを尽くした超絶技巧の琵琶形香箱です。研出蒔絵で面板に杢目を表現し、撥面に秋草文(菊、芒、撫子、女郎花)、銀で月、黒漆で鈴虫が彩られています。覆手と蜻蛉を高蒔絵にする事でより立体感を出し、柱に施された螺鈿が美しく煌めいています。秋の優雅な音色が聴こえてくるような趣は空間の質を昇華し、採算を度外視した最高峰の特別作品です。
- 時代
- 明治時代
19世紀
- 重量
- 88g
- 径
- 8.1×22.7cm
- 高さ
- 3.5cm
- 次第
- 塗箱
- 状態
- 柱の側面に直しがあります
厳しい造形、落ち着きある地肌、精緻な蒔絵と一級品の条件を満たしています。僅かな直しがありますが、時代蒔絵ですので、さほど気になる事はありません。
蒔絵
蒔絵とは漆器の表面に漆で絵文様等を描き、
乾かない間に金銀粉を蒔いては研ぎを繰り返して器面に定着させる漆芸技法です。
中国の戦国時代(紀元前403~紀元前221年)の遺跡からも発掘品が確認されており、
日本では奈良時代に創案されたと伝えられ、
平安時代に貴族社会の調度品や寺院内の装飾として発達を遂げました。
平安後期には螺鈿を併用する技法が盛んとなり、
鎌倉時代には平蒔絵や高蒔絵の技法が新たに生まれて基本的技法がほぼ完成します。
室町時代には研出蒔絵が生まれて高度に洗練され、
桃山時代には自由な意匠とシンプルな技法の大胆な表現で人気を博します。
江戸時代には繊細で絢爛な作品が西欧貴族の調度品として愛用され、
明治時代には意匠性の高い美術工芸品として芸術性を深めていきます。
各時代の上層階級の人々は生活用具を蒔絵で彩り、日常をより豊かなものとしていました。
蒔絵は「平蒔絵」、「高蒔絵」、「研出蒔絵」と大きく分類され、
螺鈿や截金等の技法が併用される事で作風に幅を魅せています。