
大らかで雄渾な作行を示す初期伊万里のミュージアムピースです。草創期における一尺(約30.0cm)を超えた大作の成形は技術的に困難を極め、五寸皿(約15.0cm)や七寸皿(約21.0cm)の多くが揃いの食器として、数ある組物で造られたのに対し、大鉢は一点物として、付加価値を付けた特別な高級品目でした。初期伊万里は胎土、顔料、釉薬の精製が不十分であり、素焼きもせず、窯詰めに匣鉢も使用していない為、地肌が灰色を帯びたり、歪み、降り物、全面に貫入等が見られる事が多いのですが、現品は柔らかみある綺麗な地肌と理想的な染付の発色を示し、焼き上がりも秀抜です。特筆すべきは他に類例がない、松枝上から猿が下に手を長く伸ばした極めて珍しい構図です。初期伊万里の大鉢には山水文が多く、このような特殊な題材は唯一無二といえます。吉祥の松竹梅の取り合わせに、縁周りは芙蓉手のスタイルとなっており、当時の国内で需要が高かった中国磁器の影響が垣間見えます。この芙蓉手の様式は後の輸出古伊万里へと受け継がれていきます。高台脇に見られる陶工の指跡が、どこかほっとするような温かみある景色を添えており、生涯をかけて作陶に挑んだ魂の軌跡を辿る事ができます。伝世で完品(無傷)の優れた初期伊万里大鉢は圧倒的に少なく、その殆どが美術館に収蔵されているのが現状です。権威ある書籍『日本の陶磁 古伊万里』や、山下朔郎先生の『(新撰)古伊万里染付皿』等に現品が掲載されており、来歴も完璧です。
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- 商品コード
- 220403-1
- 時代
- 江戸初期
17世紀前半
- 重量
- 2,890g
- 口径
- 35.3×34.4cm
- 高さ
- 10.4cm
- 底径
- 10.3cm
- 次第
- 桐箱
アクリル皿立
- 来歴
- 原色愛蔵版『日本の陶磁8 古伊万里』、中央公論社、P69,No52. 所載品
『古伊万里染付皿』、雄山閣、山下朔郎 著、P30,No9. 所載品
『新撰古伊万里染付皿』、創樹社美術出版、山下朔郎 著、P20,No10. 所載品
初期伊万里
https://tenpyodo.com/dictionary/early-imari/
初期伊万里とは1616(元和2)年に生まれたと伝えられる日本最初の磁器です。
17世紀中期頃までは「生掛け」といって、成形した後の素焼き(約900℃)を省き、
高火度で本焼き(約1,300℃)していました。
17世紀後半に素焼きの工程が取り入れられるようになると、
焼成中に歪んだり、割れたりする事も少なくなりました。
陶磁器を焼成する際に素地を保護する為に用いられる匣鉢(ボシ)が未だ使用されていない為、
窯内において灰や鉄分等の降り物が付着した作品も見られます。
窯床と器物の熔着を防ぐ方法として粗砂が撒かれましたので、
畳付に粗砂が付着した作品も多いです。
こういった磁器制作は朝鮮からの渡来陶工によって支えられたのですが、
文様構成は中国・明時代末期の景徳鎮磁器を模倣しており、
日本独自のスタイルを求めて試行錯誤を繰り返していた時期でもありました。
初期伊万里の銘款種類は極めて少なく、
文字の書き方やその意味さえも知らない陶工達が無造作に中国磁器を模倣して描いた為、
解読できない文字や誤字脱字も見られます。
又、陶工により描かれた素朴で味わい深い絵付けも初期伊万里の特徴の一つです。
技術的には未完成ですが、完成期には見られない初々しさや大胆さがあります。
「未完成の中に見出される美」こそが初期伊万里の最大の魅力であり、
温かみある独特の柔和な釉調は李朝磁器に通ずるものがあります。