この作品を手にした時、純粋に美しいと感じました。内側に梅と雪輪文、外側周囲に龍と鳳凰文が精緻な染付で描かれ、造形、焼き上がり、発色と完璧といって過言でない最上手の優品です。精作に見られる「古人(いにしえびと)」の在銘も嬉しいです。
- 時代
- 江戸中期
17世紀後半
- 状態
- 完品
- 重量
- 約 291g(1客あたり)
- 口径
- 約 15.2×10.5cm
- 高さ
- 約 4.9cm
- 底径
- 約 10.4×5.3cm
- 商品コード
- 201213-10
柿右衛門様式
柿右衛門様式とは延宝年間(1673~81)頃を中心に焼成された伊万里焼の様式です。
現在における「柿右衛門」の定義とは柿右衛門家のみで造られた独占的な作品ではなく、
V.O.C(オランダ東インド会社)からの大量注文を受けて、
肥前有田の窯々で輸出用に完成された作品群として「様式」の語句が付加されています。
絵師の手による余白を活かした繊細な絵付け、精緻を極めた作行を特徴とし、
優雅で気品高い柿右衛門様式は欧州の王侯貴族を魅了した高級花形商品として、
V.O.Cによって大量に積み出しされた磁器の中でも特に根強い人気を博しました。
更に「濁手」と呼ばれる純白色の温かみある柔和な素地は色絵の鮮麗さをより際立たせ、
以後のマイセンやシャンティイにおける欧州磁器の焼成に大きな影響を与えました。
尚、柿右衛門様式には「渦福」と呼ばれる銘款が入った作品が多く見られます。
デザイン化した「福」が渦を巻いたように見える事から呼び慣わされている名称です。
「金」、「古人」等の銘款は上手の精作に多く見られます。
江戸時代に輸出された古伊万里も豪華絢爛な美を示しましたが、
人々の目を引いて関心を集めているのはやはり柿右衛門様式の作品です。
龍(文様)
龍は水中に棲んで空を飛翔し、雲を起こして雨を呼ぶという想像上の生物です。
古来中国では麒麟、鳳凰、霊亀と共に「四霊(四瑞)」の一つとして尊崇されました。
中国で龍は「皇帝」、鳳凰は「皇后」の象徴として知られ、
朝鮮や日本においても重要な装飾文様として定着しました。
1297(大徳元)年に一般庶民の使用する龍爪は四爪とする建白が行われ、
1314(延祐元)年に元王朝は「五爪二角」の龍を皇帝・宮廷の象徴文様に決定しました。
明・清王朝もこの制度を継承し、御器廠(景徳鎮官窯)において使用されました。
日本にはこうした五爪龍の思想は入りませんでした。
虚栄を張って頭を下げる事を好まない独裁者である君主を龍に例え、
世を丸く統治できる威徳が備わった名君であって欲しいと願望する庶民の心を反映して、
龍を丸く描いた団龍文様が描写されたとも伝えられています。
鳳凰(文様)
鳳凰は梧桐(青桐)に宿り、竹の実を食べ、醴泉水を飲むという想像上の霊鳥です。
古来中国では麒麟、霊亀、応竜と共に「四霊(四瑞)」の一つとして尊崇されました。
聖天子出生の瑞兆として出現すると伝えられており、
体は前半身が麒麟、後半身は鹿、頸は蛇、尾は魚、背は亀、頷は燕、嘴は鶏に似て、
羽は孔雀のように五色絢爛で声は五音にかなって気高いとされます。
「鳳」は雄、「凰」は雌を指し、
中国で龍は「皇帝」、鳳凰は「皇后」の象徴としても知られています。
桐、竹、牡丹等と共に描かれる事が多いです。
梅(文様)
梅は早春、葉に先立って色彩豊かに花を開きます。
花は五弁で色は白、紅、薄紅等があり、身近でおめでたい植物として好まれました。
香気が高く、夜に香るともいわれます。
日本にも奈良時代迄には中国から伝えられたとされており、
平安時代以降は特に香を賞で詩歌に詠まれました。
江戸時代以降は品種改良が進み、江戸中期頃から果実生産も盛んになりました。
果実は梅干しや梅漬けとし、木材は器物として使用されます。
その美しさを高潔な花として君子に例えた「四君子(菊、蘭、竹、梅)」にも含まれており、
君子とは徳が高くて品位の備わった人物を指します。
又、「三友(松、竹、梅)」、「五友(菊、蘭、竹、梅、蓮)」の一つとしても知られており、
文様に知られる「梅に鶯」とは取り合わせの良い事の喩えとされています。